「学校」夜間中学校が舞台の山田洋次監督作品
山田洋次監督の「学校」1993年作品。
夜間中学校へ通ってくる生徒たちの物語。難しい人々がたくさん出てくる。みんな社会の中で多かれ少なかれ矛盾を抱えている。日中、重労働をしている青年のカズ、両親の仲がぎくしゃくしているが比較的経済的には安定しているえり子、焼き肉店を経営している在日コリアンのオモニ、母が日本人父が中国人のチャン、脳性まひの障害をもつ修、シンナーを吸い鑑別所経験のあるみどり、字を読んだり書いたり出来ずに苦労してきた肉体労働者のイノさん。
学ぶこと、働くこと、生きることが、ものすごく凝縮されて描かれている。
貧困、差別が根底に横たわっているのがわかるが、そこはほんのりと問題提起はするが、深堀りはしない。
西田敏行演じる先生の黒ちゃんは、とにかく受け止める。「えり子がそう思ったんなら、やってみな。」そして本人の気持ちを一番重要視する。ありのままの生徒にありのままの自分を対応させているという感じ。でも、ひとつ腑に落ちないのは、田島先生がイノさんからハガキをもらった際に、その解決のために自分が尽力してしまうところ。「イノさんは田島先生に投げかけたのだから、田島先生がイノさんに向き合うべき。」と言ってほしかったな。まぁ、そうしないと、イノさんがブチ切れる場面が作れなくなるわけだけど。
田島先生は自分が母子家庭の母親で、教師である自分との狭間で苦闘している。チャン君の就職にも思うように尽力できなくて、泣き崩れる。強さと弱さを併せ持った女性なのだけど、私としては少々不満で竹下景子演じる田島先生はまだまだ主体的に生きる女性にはなりきれてない気がする。
余談だが、学校Ⅱのいしだあゆみ演じる北川先生は、その点、かっこいい。自分を確立している。
この作品では、荒削りで若芽のような萩原聖人、アブなくて儚げな裕木奈江、清潔感が冴え軸のある中江有里という若い俳優が素晴らしい。西田敏行が、これはわざとだと思うけど、福島弁で話しているところも間が抜けて温かい。イノさんの田中邦衛の旨味のある演技は日本映画の宝だと思う。