大村洋子
大村洋子大村洋子

浦賀にサーカスがやって来た

サーカスというとどうしても物悲しげなイメージが付きまとう。ピエロ(道化師)のメイクに涙の雫が施されるからだろうか。昔、観たデビッド・リンチ監督の「エレファントマン」を思い出すからだろうか。

結局、私はPOPサーカスを観に行った。

結局というのは、とうに6月定例議会が大詰めとなり、最終日の討論を準備する時期になって、やっぱり行こうと思い立ちチケットを取った経緯からだ。

夫や息子を誘ってみたが、彼らはまったく興味がないようだった。

私らしくもないことだが、還暦にもならんとする人間が1人でサーカスを観に行くという客観性に躊躇いがあったのだ。

なんだかんだ言っても、サーカスは素晴らしかった。計算されつくした構成、それを忠実にやり抜く演者、一気に違う世界に連れて行かれた。エンターテイメントとはまさにこういうことかと思った。

予定より5分遅れてスタートすることが、場内アナウンスで知らされると、しばらくして舞台横から2人の演者らしき人物がひょっこり現れて、お客に手拍子を指示してきた。かれらは縦横無尽に客席まで下りてきてお客とコミュニケーションをする。二手に分かれて、観客席の塊を鼓舞する。私も一気にテンションが上がった。

それからはコミカルな芸当やら、スリリングなアクロバットやら、華麗な曲芸やらが次々と登場して夢のような舞台が続いた。

前半と後半の間に10分程度の休憩が入った。この休憩はトイレと物販と観客を一度日常に戻す意味があったのだろう。リフレッシュした観客は後半さらに集中して見居ることができる。一度日常に戻すことは没入感からすればリスクになるとも思われるが、あえてこのような構成にしたのだ。

集中力も途切れることなく後半も楽しめた。音楽の効果も素晴らしかったし、何より一体感があった。

私の席は出口のすぐそばだったこともあり、帰る際は込む前にエントランスに出ることができた。そこにはなんと、先ほど華やかに舞台に立っていたパフォーマーたちが並んでいた。私はとても興奮していたので、自分でも驚くほど躊躇なしにほぼ全員とハイタッチをした!お一人お一人のプロフェッショナルな心意気には心からリスペクトだ。すごい勇気をもらった。

昨日、住重の横を車で通ったら、テントのあったところにはもう何もなくて、ただの地面だけになっていた。そうだ、サーカスってテントなんだ。興行の際にテントを建てて、終わったら跡形もなく撤収する。まるで、魔法のように現れて去っていく。あの一体感もテントという限られた時間だけの空間に集った者だけが醸し出せる雰囲気だったのかもしれない。

いや~、思い出しても感激がよみがえる。サーカスって人間賛歌、人生賛歌だなぁ。