大村洋子
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中国は本当に脅威だろうか?~大門みきし参議院議員の国会質疑から~

日本共産党の国会議員はみな個性的だと思うけれど、その中でも特に大門みきし参議院議員は面白い。私は残念ながら直接お会いしたことはないが、実はファンなのである。安保関連法案=戦争法案の審議が参議院に移ってからも、軍事的な内容の審議が中心となっているが、大門さんはお得意の経済の観点から切り込み、見事な質疑を交わし、経済産業大臣、外務大臣、防衛大臣から重要な答弁を引き出した。

大門議員は自民党議員と防衛大臣の質疑を聞いていて、「自民党議員は盛んに『中国を脅威』というが、大臣は脅威とは言わず、『懸念』と言っていた。防衛省は本当のところどう思っているのか」とただした。すると、中谷防衛大臣は「中国を含めて特定の国を脅威とみなし、軍事的に対抗していく発想にない。」と答弁。漠然と漂っていた「中国脅威論」が実は根拠なく、自民党によってつくられたものであったことがはっきりした。

また、中国との経済の相互依存度を測る指標である貿易総額に着目して日米間よりも日中間が大きいことを指摘した。

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この表からもわかる。全体の国際収支では日米間が56兆円と大きいが、貿易総額だけを見ると日中間が約30兆円で一番大きい。中国へ進出している日本企業は4万社以上であり、輸出先では1位がアメリカ2位が中国、輸入元ではアメリカを抜いて中国が1位となっている。宮沢経済産業大臣は「(中国との)経済の結びつきが将来さらに強くなることを考えると、大事な市場という位置づけは変わらない。」と答弁した。

岸田外務大臣も開幕中のASEAN外相会談で法的拘束力がある南シナ海行動規範について「早期妥結に向けて発言していきたい」と前向きな姿勢を示し、「中国を脅威とみていない。」と発言した。

 

昨年、私は、元中国大使の丹羽宇一郎氏の講演を聴く機会があった。丹羽氏は伊藤忠商事の社長、会長を務めたこともある人物で、とりわけ中国との貿易では第一線で活躍してきた経済人、名だたる企業家である。そういう経歴経験から外交官に抜擢されたのではないかと思う。この中国の裏も表もよく知った人物が、本当にはっきりと「中国と日本は戦争になんかならない。」と言っていた。30兆円の貿易のやりとりのある相手と誰が好き好んで戦争するか。文化的な交流と同時に、経済でも日本と中国は無数の結びつきによって関係性が密になっているのだ。

大門議員は「将来の利害が一致する国同士が戦争するのは、世界の常識からも考えられない。」と述べた。私もそう思う。そこで戦争論を書いたクラウゼヴイッツの「戦争は他の手段をもってする政治の延長」という言葉を思い出した。そして、政治の土台は経済である。経済利害の方向性が一致しているのだから、いがみ合う必要などないのである。

尖閣諸島の問題にしろ、小笠原の珊瑚密漁の問題にしろ、中国の蛮行は目に余るものがある。しかし、だからと言って海上自衛隊出動が適切か。そうではない。海上保安庁「海猿」の仕事ではないか。

大門議員はもっと冷静に全体をよく見渡してみろと言っている。中国の脅威を煽りたてて、だから絶対、日本と日本人の安全と幸福のために安保法案が必要、そう繰り返す前に、そもそもそんな脅威がどこにあるのかという話だ。わざわざ軍事的対立をこしらえている、与党の姿勢こそ問題なのだ。

これからは、街頭・駅頭で訴えるときに、中国と結びついている日本の企業は4万社もあり、貿易も盛んで総額は30兆円!ということも入れようと思う。そういえば、中国の富裕層は日本に観光に来て家電製品を爆買いしているというから、家電業界にとっては超優良お得意様ではないか。そんな国を仮想敵国にするって、あまりに失礼じゃないか。