大村洋子
大村洋子大村洋子

今回の米海軍基地への「立入り」とはいったい何だったのか

米海軍横須賀基地への立入り実施

日時 2022年12月15日(木)午前9時~12時

立入者 全部で16人 横須賀市 市長特命参与、環境部等6人

      防衛省、防衛省南関東防衛局、外務省、環境省 

対応者 在日米軍司令部、在日米海軍司令部、横須賀基地司令部

      役職、名前の公表はなし

【立入り実施の内容】

① 米海軍横須賀基地への立入 → 今回がはじめて

② 排水処理場内の水が流れる経路を確認。

米側は自分たちが調査を行っていることを理由に、市独自のサンプリングは拒否した。

③ タンク状のフィルター(12基)の確認と説明。

④ 排水口近くの海域で船の上から海水を採水。

提供水域内において日米共同でサンプリングを実施。

今回の米海軍横須賀基地への「立入り」について「何が得られたの?結局、進んだものって何もないみたい・・・がっかり」と言うのは簡単なので、少し振り返ってみたい。「立入り」が実現したこと、それじたいは「基地対策のあゆみ」という市の年表にも記載できるし、大きなトピックではあると思う。しかし、問題はそれが本質的なこと=原因究明にどう結びつくのか、ひいては横須賀市民にとってどうなのか、つまり横須賀市民の命と健康と生業、安全安心にどれほど寄与したかということ、ここをあいまいにして単なる既成事実化だけでは済まされないということである。

 本日付けの神奈川新聞には「米軍基地内 初の調査」と大見出しが出ていた。がしかし、厳密にいうと「調査」ではない。あくまで「立入実施」だ。横須賀市が配布した「横須賀海軍施設への立入りの実施について」という報告文の中にも一言も「調査」という言葉はない。担当者も「我々に調査はできない」ときっぱり言っていた。横須賀市がおこなったことは「確認」や「説明を受けた」である。しかも、「確認」の中には「確認できなかったこと」もあり「説明を受けた」の中には「結果が得られなかったとの説明を受けた」というものもあり、これらはわざわざ、「立入り実施」するまでもなく通話かテレビ会議でも事足りる内容である。唯一といって良い能動的内容はサンプリングの実施である。今回、基地から50ヤード内の本来立入禁止区域である水域に対して日米合同でサンプリングを実施したというのだ。担当者はこの点について触れた際、電話で話をしていて、少し声に誇らしさを滲ませていた。(少なくとも私はそう感じた)

 とはいえ、この立入禁止区域内のサンプリングでさえ、これは私の想像だけれども、一つくらいは記事として書けるものを日本側に用意しないと格好がつかないだろう程度に米側が「配慮」したものではないかと思う。あるいは日米合同委員会の面々の「ご厚意」か。市はもともと、海に流される前の排水の採水を求めていた。しかし、米側は自分たちが調査を行っているのだからと、横須賀市の採水を拒否したという。

 立入り実施にあたって国や市は要望を事前に提出していると思う。それに目を通し、OKか否かを事前に決定する際、すべてを拒否したのでは日本側の立場もあるだろうから少しばかりの「お土産」も用意する必要があるだろう、50ヤード内の本来は立入禁止区域ではあるけれども例外中の例外として日米共同のサンプリングを行おうということに収まったのではないか。基地内の排水の採水は拒否し、他方提供水域内の採水については譲歩する、なおかつ仲良く日米合同でサンプリングを演出。

ウインーウインのデモンストレーションの出来上がりだ。

 今回の立入り実施後の報告の中にはこれはおかしいな、問題だなという点が散見されている。

3つ挙げたいと思う。

1つ目。米側は10/28、11/2、11/18と3回サンプリングを行っている。しかし10/28、11/2、この2回はサンプリング方法に不備があり、分析結果が得られなかったという。容器への記入ペンの成分が影響か、付箋の影響か定かではないが、いずれにせよ、「サンプリング方法の不備」ということだ。しかし、こんな凡ミスをするだろうか、しかも2回も。採水サンプリングはもう何度も行っているのに。11/1に粒状活性炭フィルターを設置していることから、その直前と直後に位置するサンプリングなのだ。もっとも慎重に行いしっかりと日本側に伝えるべき内容だったはずだ。それをサンプリング方法の不備で分析結果を得られなかったとは大失態じゃないか!到底看過できるものではない。しかも、11/18のサンプリング結果についても数値を報告していない。暫定目標値以下であるとだけ報告を受けている。この米側の対応も解せない。丁寧さがない。「暫定値より低かったんだから、問題ないでしょ」程度の心持が見え隠れする。

2つ目。汚泥とリフトステーションのサンプリング結果の報告がなかった。汚泥は8月29日に除去している。その際にサンプリングしているならば、もうとっくの昔に結果が出ているはずである。リフトステーションという存在も排水処理場の前の施設にも原因究明のスポットを当てるべきとの客観的状況となったことから浮上してきた施設だった。この2つのサンプリングの結果については今後、環境分科会を含む日米合同委員会の枠組みを通じて日米両政府の調整が行われるとのことだ。「今後」とあることから未だ合同委員会のテーブルに乗っていないということだ。結果の数値はもうとっくに出ているがそれを日本側に公表していいのかダメなのか、政治的判断も含めて議論するということだ。人体に悪影響を及ぼすといわれているPFASが海に垂れ流されているというのに、ペンタゴンにお伺いを立てて、なおかつ日米のトップシークレットで議論してはじめて公表されるというわけだ。どうかしている。こんなシステムに牛耳られている。これでも独立国家といえるのか。

3つ目。リフトステーション、排水処理施設の間のタンクについて現地確認できなかったという。ここでの理由はお決まりの「米軍の運用にかかる事」だった。10/6市長は在日米海軍司令部へ申し入れを行っている。その際、在日米海軍司令官と意見交換していて、司令官は「リフトステーションから排水処理施設の間に、一か所大きなタンクがあるが、そのタンク内の水をくみ取ることを検討している」と発言している。わざわざ、具体的にポイントを示しそのタンクのサンプリングを示唆したわけだ。立入りの際に「司令官が言ったのはここですよ」と見せるのが筋ではないか。市の報告の中に現地確認できなかったとあることから、市としては現地確認のポイントの1つに挙げていたのだろう。しかし、それが叶わなかったということだ。「米軍の運用だから」と言われると、もうそれ以上どうしょうもないということなのだろう。それは私たちが質問する際の答弁にも用いられる。都合の良い言葉だが、同じように役人たちが米側から常に浴びせられている言葉でもあるのだ。危うく「思考停止」を強いられる言葉だ。ここからは現状に甘んじるか、現状を否定し抗うか姿勢によって捉え方、出方は違ってくる。煎じ詰めると日本国憲法と日米地位協定はどちらが日本国民にとって最高法規であるべきかという問題だ。

今回のPFAS問題の件で「立入り」に一番初めにしっかり触れたのは上地市長である。7/1に防衛大臣に会いに行き基地内への「立入り」に触れていた。私は正直、よくそこまで市長は言及したなと思った。そして、市長のその言動を引用して、8/29の一般質問で「立入り」するべき、本市こそ率先して行うべきと訴えた。しかし、その際の市長の答弁は「私たちは遠慮させてもらうのが当たり前だと思っています」というものだった。防衛大臣に会いに行った時のあの威勢のよさはどこに行っちゃったんだろうと思うほどのしおらしい答弁だった。2カ月余で「いいですか、市長・・・」と言い含められでもしたのかと思うほどお行儀良くなってしまった。その後、「立入り実施」については国が行いしっかり報告を求めるという立場となり、しばらくして国だけではなく市も申請というふうになった。右往左往しながら腹を決めたということか。そして、実際に昨日、立入り実施が敢行された。「調査」でもなし「監視」でもなし、ましてや「改善命令」でもない「現地確認」。結果としては前述したようなあえて、現地に赴くまでもない報告が数件、しかも否定的内容多数、しいてトピックといえることは提供水域内の日米共同サンプリングくらいだ。(これとて、結果報告まで本国ペンタゴンの許可を得て公表の妥当性の議論を経てやっと私たちが知ることができる)

粒状活性炭のフィルターは2メートルを超えるような大きなタンクが12個あって、想像以上に大規模で、「見てくださいよ、こんな大きなものだったんです。おいそれと設置なんてできないでしょう」米軍はそう言ったのではないかしら。そう勘ぐってしまいそうだ。

つまり、立入り実施を最も意義あるものとして行ったのは米海軍だったのではないかとさえ私は感じる。だって、原因究明については1ミリも進んだ気配がないのだから。

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画像は非核市民宣言運動の新倉裕史さんからいただいた。