大村洋子
大村洋子大村洋子

猿島の3億円トイレ増設事業は何を物語るか

3月予算議会の中でひときわ目を引いた猿島公園のトイレ増設事業。

私は猿島が好きなので、この際、考えてみよう。

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(画像は観光情報「ここはヨコスカ」から)

猿島は2003年国から無償譲与された。今、60歳代の人がこどもの頃に行ったことがあるというから、国の持ち物だったころから、行くことは出来たわけだ。国から譲り受けたけれども、当時はおそらく持て余していたのではないだろうか。

あるいは、何か目的があって市のものにしたのか、その辺りの経緯はわからない。研究してみると面白いかもしれない。

私はそのころまだ議員にはなっていなかったが、猿島が横須賀市のものになったということは、それなりに大きなニュースであったと記憶する。しかしだからと言って横須賀市として活用の強い方向性はなかったように思う。少なくとも沢田市政でも蒲谷市政でも目立った動きはほとんどなかったのではないだろうか。

その後、2015年国史跡になった。そしてほぼ同時に入園料をとるようになった。猿島には海を渡って行かなければならないため船の代金が大人往復1,400円。こども700円。入園料は小中学生100円。それ以上は200円。島なのに入園料というのもヘンな気がするが、猿島は島ではあるが、公園でもあるので、入園料なのだ。

 

少し脱線するが、今の猿島に至るまでの課程で忘れてならにことがあったので、展開しておきたい。

前市長の吉田雄人氏が名刺の裏に猿島航路代金が安くなるクーポン券を印刷して問題になったことがあった。猿島の来園者は2013年には約11万人、2017年には約18万人となったというから、名刺裏のクーポンが功を奏したかどうかは別としても吉田市長時代に先鞭がつけられたと言ってもよいと思う。夏のバーベキューで市内外から人が押し寄せた。吉田市政は外部から専門家を入れて横須賀のイメージチェンジを図り“リブランディング”に力を入れた。集客から定住へというコンセプトで、外から呼び寄せるという発想だった。

軍都横須賀を背負う歴代の市長の一人として、横須賀市をどうしていくかということを本気で考え、何で活路を見出すかの末、このリブランディングにシフトしたのだと思うが、結果的に吉田氏は自滅した。中途半端に基地のまちを受け入れつつそれを売りにもしながら望みを繋ごうとしたが失敗に終わった。

従って、「猿島の活用」は好むと好まざるにかかわらず、このような吉田市政の残存の上に構築せざるを得ないものなのだということは押さえておく必要がある。それが言い過ぎだとしてもそのような1ページがあったことは何かの教訓にはなると思う。

とまれ、議会も大きく関わった観光立市推進条例が2015年4月1日から施行され、猿島は観光スポットの一つになった。

 

少し時間が前後するが、2013年8月にレストハウスが全焼した。

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そのころはまだ国史跡として登録されていなかったことから元あった場所にレストハウスは約7,000万円で再建された。もし、現在であったならば、当時のように容易にレストハウスの再建は出来なかっただろう。

レストハウスはきれいに整備され、2019年にはワンピースとコラボして猿島はモンキー・D・ルフィ島となった。

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国史跡の登録となったことから、現在は島のほとんどの場所に建築物設置はできなくなった。今回問題となった「3億円のトイレ」がなぜ3億円も必要になったのかの理由の一つに設置場所の地盤整備がある。

割高になる理由ついて市は以下のように説明している。

通常の場所に今回のようなトイレを建設すれば約6,000万円かかる。ではなぜ、2億4,000万円割高なのか。

①猿島は島全体が史跡。影響のない箇所は限定されている。今回の立地予定である奥桟橋は地盤改良に約5,000万円かかる。

②離島のため独自の浄化システムが必要でそれに9,000万円かかる。

③建設材料等の海上運搬経費に約1億円かかる。

前述のとおり猿島のレストハウスは全焼している。理由はわからない。バーベキューの後始末がわるかったのか?という憶測も飛んだがわからない。私は当時、現在と同じように都市整備常任委員会に所属していたので、焼け跡を見に行っている。離島における防火対策の強化と火災消火の難しさをまざまざと見せつけられた。

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こうして、猿島の20年弱を振り返ると、改めて猿島の変化に気づく。猿島は離島であるゆえに船で行く。ショートトリップ感覚でほんのちょっぴりの「非日常」を味わえる。そして、戦跡という要塞の顔を目の当たり史にし、レンガ積みを観て産業遺産にも思いをはせ、鳥や蝶や樹木を観て自然も満喫できる。夏はバーベキューや海水浴もできる。あまりに多くの顔を持つゆえに統制なしに集客を広げキャパシティを超えてしまった感も否めない。

 

今から思うと2013年の火災は警告であったのかもしれない。

人の多さに比して、管理や整備が行き届かなかった、それが火災という形で顕在化したのではないか。その後、史跡にもなり建築物の設置に制限がかけられるようになった。

建築物というわけではないが、2019年のワンピースイベントでは島内のいたるところにフィギュアが設置されるということになり、遺構に影響がないのか私は随分心配した。当時の教育福祉常任委員会の中ではくれぐれも配慮してほしいと発言してきた。

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結果として、遺構に影響するところを避けてフィギュアは設置された。

猿島はレストハウスを再建し、史跡登録もされ、イベントも行い右肩上がりに集客を増やしてきた。管理には財源が必要となり入園料を取るようになり、2021年には指定管理者に任せる計画となった。

その為には懸案事項であるトイレの増設である。指定管理者に任せるためには猶予はない・・・そういうことではないだろうか。

 

しかし、本当にこれが猿島の姿だろうか。どうも釈然としないのである。

 

2019年は年間入園者が22万人になったという。だから、トイレに長蛇の列、これではいけないという。そのまま聞けばその通りだ。

しかし、離島にそんなに快適さが必要だろうか。

上地市長は3億円のトイレ増設と聞いて驚き、呆れ、激怒したという。そして悩んだあげく了承したという。コロナ禍で1年以上観光が出来ていない。空白を取り戻したい。建設には8か月かかる。今年10月に建設を開始し完成は来年の5月だという。だから今から早急に取り掛かる必要があるのだという。

これを聞いて私は一種の賭けだなと思った。来年5月にはコロナ禍も沈静化して、再び猿島にはお客様がド~ンと押し寄せ賑やかさが戻り「横須賀再興」めでたしめでたし、そうなることを見込んでいるんだなと思った。そうなればそれで、3億円トイレ増設は先見の明として、後の世に語り継がれるだろう。それも悪くはない。

しかし、本当にそれでいいのかな。猿島の本来の姿。

市長は猿島を「神聖な」と修飾していた。そのニュアンスに近いものを私も感じる。猿島は遊ぶというよりは学び考えるところであり、後世に残していくところだ。市長は「賑わいと環境のバランスをとっていく」と言ったが、指定管理者に任せ、年間22万人、3億円のトイレ増設、どうもかけ離れていくようで私にはしっくりこない。

日本共産党は議論を重ねた結果、猿島3億円トイレには賛成しないことに決めた。猿島を指定管理者に任せる議案にも反対した。

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私は木漏れ日と鳥のさえずりとレンガ積みの猿島が好きだな。