大村洋子
大村洋子大村洋子

横須賀市による自衛官募集のための自衛隊への名簿提出の中止等を求める請願に賛成する討論

名簿提出問題は多くの切り口で論じることが出来ると思います。

今回、私は、京都の弁護士、福山和人氏が展開していらっしゃる論法を用いて、自衛隊施行令120条の「資料の提出」が何を指しているのかをかなり執拗に述べました。

そして、わが団のこれまでの市長とのやりとり、既に過去の人となった安倍晋三氏の発言から見る政治的背景も盛り込みました。

賛成討論を書く中で改めて、この問題が国民の基本的人権を踏みにじる内容をはらんでいることを考えました。そして、それを言われるまま行っている地方自治体がこうやってからめとられ、協力させられていくのだなと恐ろしくなりました。何に協力させられるかって、国家統制、戦争への道です。その痛苦の反省からできた日本国憲法を何度も何度も噛み締めて生きていかねばと思いを強くしたのも今回の討論を通じてです。

 

以下に原稿そのものを掲載します。

 

日本共産党の大村洋子です。

会派を代表して請願第6号「横須賀市による自衛官募集のための自衛隊への名簿提出の中止等について」賛成の立場で討論をいたします。

事前の資料照会によりますと、本市は今年度は7月28日に18歳3,885名、22歳4,266名を対象として市職員がその情報を抽出し、印刷物に出力して来庁した自衛官に渡し、使用方法については確認していないということでした。また、名簿作成にかかった費用は募集事務地方公共団体委託費に用紙代248円を充てるとのことでした。

この事実に対して、私たちは改めて抗議の意思を表明します。

では、この問題のこれまでの経緯を整理しておきたいと思います。2019年6月定例議会・一般質問においてねぎしかずこ議員が取り上げています。この時の市長答弁は住民基本台帳法第11条第1項を引用して「最低でも閲覧に供さなければならないことは当たりまえの話です。」と答弁されています。そしてねぎし議員が「名簿の提出とは書かれていない」と言うと市長は閲覧させることが出来るから提供することもできると判断したというかなり飛躍的な答弁をされています。そして、自衛隊法第97条と自衛隊法施行令第120条を引用して名簿提出は適法だとおっしゃっています。さらには、自衛隊は国の機関として行政機関の保有する個人情報に関する法律が適用される組織なので厳格な取り扱いが確保されている、つまり自衛隊は信頼できる、個人情報を提供しても全く問題はないとおっしゃったわけです。そして、この事務は自治体が行う法定受託事務であることも明言されました。

その半年後の12月定例議会では、今度は私が本市の個人情報保護条例と日本国憲法の観点を用いて一般質問しました。街頭シール投票の例を出して「18歳、22歳の適齢の若者が私の情報は出さないでと言ったらどう判断するか」と伺うと市長は「照会があればすべて出す」と答弁しました。本市においては本人の知らないところで個人情報が動き、本人が拒否してもその意思が無視されるということがこの答弁から明らかとなりました。

この問題の発端は2019年2月に当時の首相が「自衛隊募集業務に協力していない自治体が全体の6割以上に及んでいる。憲法に自衛隊を明記して事態を是正しよう」と発言したことにあります。前首相がおっしゃった「協力する、協力しない」とはいったいどういう意味を指すのか、また、これが憲法改正とどう関係あるのか、踏み込んで展開したい衝動に駆られますが、ここではこれ以上の言及は避けます。いずれにせよ、一国の首相が自治体に向けて自衛隊募集業務に積極的に協力せよと大号令を発し、各自治体は各々の姿勢が試され、振るい分けられたことは明らかです。踏み絵を踏まされたと言ってもいいかもしれません。

 さて、経緯の整理と政治的な背景を踏まえながら、今回出された「横須賀市民の個人情報を守ってほしい」という請願について以下に私たちの意見を述べてまいります。

 本市の個人情報保護条例には第8条で個人情報の収集は原則的には本人から収集しなければならない、このようにうたわれています。そして請願の趣旨となっている個人情報、住所、氏名、生年月日、性別、これらの情報は本人の同意がある場合や人の生命、身体又は財産の安全を守るため緊急かつやむを得ないと認められるとき等、限られた場合にのみ適用されます。これまでの市の主張から、4情報の収集・提出は個人情報保護条例第8条の(2)の法令等の規定に基づくときに当たると思われます。然らば、市が根拠としている法令とは何かということになります。これは請願への所見でも述べられていた通り自衛隊法第97条です。自衛隊法第97条には

1項に都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う。とあり、

3項には第1項の規定により都道府県知事及び市町村長の行う事務並びに前項の規定により都道府県警察の行う協力に要する経費は、国庫の負担とする。

とあります。

つまり、ここでは市長村長が自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務を行い、それが法定受託事務として、国庫負担で行われることがうたわれています。では、この第97条の1で言われる市長村長が行う自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務とは何を指すのでしょうか。本市はこの事務を住民基本台帳からの適齢者の抽出・印刷・提出だと考えているのではないでしょうか。この答えを考えるために、市が根拠とする自衛隊施行令120条を考えたいと思います。120条では「防衛大臣は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる。」とうたわれています。ここでのポイントは「必要な報告又は資料の提出を求めることができる」という文言です。生活環境常任委員会の市民部所見では「「資料の提出」に当たるのが自衛官等の募集のための名簿の提出」と述べていました。これは国が言っていることであり、全国の名簿提出をしている自治体の論拠となっています。

さらに掘り下げて考えていきます。この120条の「資料の提出」とは何を指すのか。これについては「名簿の提出」を指しているのではないとおっしゃる専門家もいます。なぜ、そのようなことが言えるのか。自衛隊法施行令の第120条を前の条から読み込んでいけばわかります。まず120条は第7章の雑則に挿入されています。第7章は114条からはじまり、募集期間の告示、第115条が応募資格の調査及び受験票の交付、第116条は応募資格の調査の委嘱、第117条は試験期日及び試験場の告示等、第118条は海上自衛官、航空自衛官等の募集事務、第119条は広報宣伝となり120条の1は報告又は資料の提出です。ちなみに第120条は18項まであります。このように自衛隊法施行令第7章全体をはじめから読み込み、立て付け全体を俯瞰して120条を見れば、ここで言う「報告又は資料の提出」とは114条の募集期間の告示をいつから行ったのかとか、119条の広報宣伝で自衛官募集の懸垂幕をいつからいつ掲示したのかとか、ポスターはどこにどのように貼ったのかとかそれらの報告と資料の提出と考えるのが自然ではないでしょうか。施行令の条文の立て付けがそうなっています。自衛隊法97条でうたわれている「自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う。」というものは自治体が行う業務として、法定受託事務であるということは理解するところです。しかし、それを「自衛官等の募集のための適齢者の名簿の提出」に結びつけるのは無理すじと言わざるを得ません。名簿の抽出・提出は政令にも施行令にもどこにもうたわれていません。そもそも政府が自衛官募集のために住民基本台帳から個人情報を得るために「報告と資料の提出」という文言を都合よく解釈し、自治体に喧伝したのではないでしょうか。

加えて申し上げれば、本市は「自衛隊は国の機関として行政機関の保有する個人情報に関する法律が適用される組織なので厳格な取り扱いが確保されている」という立場ですが、今やこの論法は全く説得力をもちません。国民はこの数年間で書類のねつ造、改ざん、隠蔽を目の当たりにしてきました。厳格な取り扱いがされていると信用する国民がどれほどいるのでしょうか。本市は「私の個人情報を守って」という市民の声にもっと真摯に耳を傾け、個人情報保護条例に忠実になることが必要だと思います。そして、自衛隊法や自衛隊法施行令を引用されるのですが、我が国の最高法規である日本国憲法の国民主権、基本的人権の尊重、平和主義、第13条が内包するプライバシー権、自己情報のコントロール権にこそ依拠するべきではないでしょうか。

ご承知の通り、1945年我が国は敗戦を経験し、2度と戦争は起こさない。国家のために国民が犠牲となるような世の中を変えなければならない、その機運の中で1947年5月3日日本国憲法は施行されました。しかし、今、本市で行われている18歳22歳の若者の自衛隊への名簿提出は、まるで、国民の個々の自己情報が国家へと集約される状況ではないでしょうか。それを地方自治体である本市が担わされているのです。これは日本国憲法が第92条から第95条でうたっている地方自治の内容にも反するものと言わざるを得ません。言うまでもなく、国と地方自治体の関係性は上意下達ではなく対等・協力関係です。自治体は住民の個人情報を守るために行動することが道理だと思います。

議場のみなさま、この請願には1230名分の署名も付けられています。陳述の中でコロナ禍でなかなか集めきれなかったとおっしゃっていましたので、この事実がさらに伝わっていけば、違和感を抱く市民はたくさんいらっしゃると思われます。どうか、請願に対して賛同していただきたくお願い申し上げまして、日本共産党の請願への賛成討論といたします。

 

2020年9月請願賛成討論1 (2)